共通する成分が主成分か不純物かは、容易想到性判断に影響を与えるか2: 知財高裁平成24年(行ケ)10221
【背景】
被告(昭和電工)が有している「洗浄剤組成物」に関する特許権(特許3927623号)について、原告(アクゾノーベル)がした無効審判請求(無効2011-800146)を不成立とした審決の取消訴訟。
争点は進歩性。
請求項1(本件発明1):
A)アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類,
B)グリコール酸塩,及び
C)陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤を主成分とし,
C)陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤1重量部に対してアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類が0.01~1重量部,かつアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対してグリコール酸塩が0.01~0.5重量部含有され,
pHが10~13であることを特徴とする洗浄剤組成物。
本件発明1と引用発明1との相違点1:
本件発明1は,洗浄剤組成物の成分「A)」ないし「C)」を「主成分とし」たものであることを規定するのに対し,引用発明1は,洗浄剤混合物の上記成分に相当する成分についてこれを主成分とは規定していない点
取消事由のひとつとして挙げられた無効理由5(本件発明1は,引用発明1及び甲2文献の記載に基づいて当業者が容易になし得たものであるとの無効理由)について、審決では、
「相違点1については,引用発明1の金属イオン封鎖剤組成物を含む洗浄剤混合物において,グリコール酸ナトリウムを洗浄効果に寄与する主成分であるとすることは,当業者が通常想到し得る事項であるとはいえない。よって,本件発明1は引用発明1に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。また,本件発明1の効果は,甲1文献の記載より予測できる範囲を超えたものであって,格別のものであるから,本件発明1は,引用発明1及び甲2文献の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。」
と判断された。
【要旨】
主 文
1 特許庁が無効2011-800146号事件について平成24年5月7日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断(抜粋)
(3) 相違点1の容易想到性について
ア 相違点1の具体的な内容
本件発明1及び引用発明1は,いずれも,生分解性に優れた洗浄剤(金属イオン封鎖剤)の開発を解決課題の一つとする,組成物の発明である。本件発明1の洗浄剤組成物はグリコール酸塩を含有しており,引用発明1の洗浄剤混合物に含まれる金属イオン封鎖剤組成物も,グリコール酸塩の1種であるグリコール酸ナトリウムを含有している。
他方,グリコール酸塩が含有される意義については,本件発明1の洗浄剤組成物では,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤と共に,主成分である3成分の一つであるのに対し,引用発明1における金属イオン封鎖剤組成物では,グリコール酸ナトリウムは,グルタミン酸二酢酸を得る際に,二次的反応によって生成される不純物であって,金属イオン封鎖剤の効果を奏する上では不要な成分であるとされている点において相違する。なお,甲1文献の前記記載によると,グリコール酸ナトリウムは不純物ではあるが,これを取り除くことなく,反応生成物(グリコール酸ナトリウム)を含有する溶液をそのまま金属イオン封鎖剤組成物として使用することが可能である。
イ 本件発明1と引用発明1における各成分の含有量等
(ア) グリコール酸塩の含有量について
本件発明1において,グリコール酸塩の含有量は,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対して0.01~0.5重量部とされているところ,引用発明1におけるOS1には,グルタミン酸二酢酸のナトリウム塩が60重量%,グリコール酸ナトリウムが12重量%含まれており,グリコール酸ナトリウムの含有量は,グルタミン酸二酢酸塩類の1種であるグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩1重量部に対して0.2重量部であって,本件発明1におけるグリコール酸塩の含有量の範囲内である。第2,3(1)ウに記載のとおり,本件発明1と引用発明1とは,上記の点において一致する。
(イ) 他の成分の含有量について
本件発明1では,アスパラギン酸二酢酸塩類及び/又はグルタミン酸二酢酸塩類,陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤も主成分であるが,引用発明1においても,グルタミン酸二酢酸塩類の1種であるグルタミン酸二酢酸のナトリウム塩,非イオン界面活性剤の1種であるエトキシル化アルコール,陰イオン界面活性剤の1種であるコプラ石鹸が含まれており,これらの含有量は,本件発明1で特定されている「陰イオン界面活性剤及び/又は非イオン界面活性剤1重量部に対してアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類が0.01~1重量部」の範囲内である。第2,3(1)ウに記載のとおり,本件発明1と引用発明1とは,上記の点においても一致する。
ウ 相違点1の容易想到性の有無について--小括
(ア) 以上を総合して判断する。
引用発明1の洗浄剤混合物は,グルタミン酸二酢酸塩類,グリコール酸塩,陰イオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤を含んでおり,本件発明1の洗浄剤組成物と組成において一致し,かつ,各成分量は,本件発明1において規定された範囲内である。
このように,引用発明1の洗浄剤混合物は,本件発明1の規定する3つの成分をいずれも含み,かつ,その成分量も本件発明1の規定する範囲内であることに照らすと,単に,グリコール酸ナトリウムが主成分の一つであると規定したことをもって,容易想到でなかったということはできない。
この点,被告は,甲1文献では,グリコール酸ナトリウムは,洗浄剤の有効成分と認識されず,精製して除去されるべき不純物として記載されているのであるから,本件発明1の相違点1に係る構成は,容易想到ではないと主張する。
確かに,仮に,本件発明1の洗浄剤組成物が引用発明1と対比して異なる成分から構成されるような場合であれば,両発明に共通する成分である「グリコール酸ナトリウム」が,単なる不純物にすぎないか否かは,発明の課題解決の上で,重要な技術的な意義を有し,容易想到性の判断に影響を与える余地があるといえる。しかし,本件においては,前記のとおり,本件発明1と引用発明1とは,その要素たる3成分が全く共通するものであるから,「グリコール酸ナトリウム」が単なる不純物ではないとの知見が,直ちに進歩性を基礎づける根拠となるものではないといえる。(中略)
エ 以上のとおり,審決は,相違点1を本件発明1と引用発明1の相違点であると認定した上で,相違点1が容易想到でないとした判断に,誤りがある。
本件発明1の格別な効果についても、裁判所は認めなかった。
【コメント】
本願発明と引用発明とで共通する成分が、本願発明では主成分として位置づけられるているのに対し、引用発明では不純物として扱われていたとき、容易想到性の判断に大きな影響を与える場合とはどんな場合か、同日付で出された判決である2013.02.27 「アクゾノーベル v. 昭和電工」 知財高裁平成24年(行ケ)10177と本判決を対比すると、おもしろい。
成分の役割というものが容易想到性の判断に影響を与えるだろうか。
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