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2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10309

ゾレア(Xolair)皮下注用(オマリズマブ(Omalizumab))特許権の存続期間の延長登録出願: 知財高裁平成24年(行ケ)10309

【背景】

原告は,「特定Fcεレセプターのための免疫グロブリン変異体」に関する特許権の特許権者であるが,本件特許の請求項15に係る発明の実施に医薬品製造販売承認に係る処分(本件処分)を受けることが必要であったとして,5年の特許権存続期間の延長登録を求めて,特許権存続期間延長登録出願をしたが,拒絶査定を受けたため,拒絶査定不服審判を請求した。

これに対し,特許庁は,本件処分の対象とされた医薬品は,451アミノ酸からなるH鎖(重鎖)を有するヒト化マウス抗体であるのに対し,本件特許の請求項15の抗体に含まれるH鎖は453アミノ酸からなるものであり,本件処分におけるオマリズマブ(遺伝子組換え)は,本件特許の請求項15に記載された抗体に該当せず,同請求項15に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえないとして,請求不成立の審決をした。

本件は,原告がこの審決の取消しを求めた事案である。

請求項15:

配列番号8および9にそれぞれ示すヒト化マウス抗体humae11 1型のFab H鎖アミノ酸配列およびL鎖アミノ酸配列を含む抗体であって,残基60がアスパラギン酸で置換され,残基61がプロリンで置換され,残基67がイソロイシンで置換されている(抗体中のアミノ酸残基の番号付けはカバットらの番号付けに基づく)ことを特徴とする抗体。

【要旨】

主 文

1 特許庁が不服2010-20810号事件について平成24年4月23日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

裁判所の判断

(1) 本判決は,本件発明における抗体はヒト化マウス抗体であり,レシピエント抗体としてヒトのIgG1を使用したと認められるところ,特許請求の範囲の請求項15にはアミノ酸残基の置換部位がカバットらの文献に記載された番号付けに基づいて記載されていることから,本件明細書に接した当業者は,本件明細書に記載されたアミノ酸配列(配列番号8)にカバットらの番号付けを対応させると認められ,その結果,上記アミノ酸配列は,125番にLys,126番にGlyが挿入されている点で,カバットらの文献に記載されたヒトIgG1のCH1領域のアミノ酸配列と齟齬することが理解できると判断した。

そして,本件特許出願時である平成4年8月当時,当業者は,それまでに判明した抗体のアミノ酸配列は,基本的には,カバットらの文献に記載されていると認識していたと認められること,レシピエント抗体として使用されたのは,一般的な抗体(本件発明では一般的なヒトIgG1)であると理解できること,当業者は,カバットらの文献に記載されたアミノ酸配列が一般的なヒトIgG1のCH1領域の配列であると理解し,本件発明で使用されたレシピエント抗体であるヒトIgG1のCH1領域のアミノ酸配列も,これと同じであると認識すると認められることなどから,本件明細書に接した当業者は,配列番号8の125番のLys,126番のGlyは誤って挿入記載されたものであり,これらの挿入のない配列が正しい配列であると認識すると認められると判断した。

従って,審決が,本件処分の対象とされた医薬品オマリズマブ(遺伝子組換え)が特許請求の範囲(請求項15)の453アミノ酸からなるものであるとの構成を充足しないとの理由のみにより,請求項15に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえない,とした判断には,少なくとも,そのことを理由とする限りにおいては,誤りがあるとして,これを取り消した。

(2) なお,請求項15については,原告は,他の構成(「残基60がアスパラギン酸で置換され」との構成)についても「アスパラギンで置換され」の誤記であるとして,併せて,誤記の訂正を目的とする訂正審判請求をしたが,同構成については,誤記であると認定することはできないとして,訂正審判請求を不成立とする審決を維持する旨の判決((平成25年9月30日判決平成24年(行ケ)第10268号審決取消請求事件))がされた(当裁判所に顕著な事実)ことから,同判決の判断を前提とするならば,いずれにしろ,医薬品オマリズマブ(遺伝子組換え)を対象として本件処分を受けることが,請求項15に係る特許発明を実施するために必要であったとはいえないことになる。しかし,審決は,453アミノ酸からなるものであるとの構成を充足しないとの理由のみにより,結論を導いていることから,再度の審理を尽くすため,主文のとおり判決することとした。

【コメント】

本件特許(第3457962号)はゾレアXolair皮下注用(一般名オマリズマブOmalizumab(遺伝子組換え))を保護するものとして存続期間延長登録出願されたが、請求項の構成が本件処分と合致しないため問題となった。

誤記の訂正を目的とした訂正審判請求不成立の審決取消訴訟(2013.09.30 「ジェネンテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成24年(行ケ)10268)では原告が敗訴したため、本件判決の最後に言及されているように審決取消により差し戻されたとしても結局本件特許は存続期間を延長できない可能性が高い。

延長できないとなると、本件特許はすでに満了(満了日は2012年8月14日)ということになる。

ゾレアXolair皮下注用の処分について存続期間延長登録出願されたのは本件特許(第3457962号)のみのようである。

再審査期間は、成人は2017年1月まで、小児は2017年8月まで。

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