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2013.10.16 「沢井製薬 v. 第一三共」 知財高裁平成24年(行ケ)10419

米国カルベジロール試験の信憑性と顕著な効果: 知財高裁平成24年(行ケ)10419

【背景】

被告(第一三共)が有する「うっ血性心不全の治療へのカルバゾール化合物の利用」に関する特許(3546058)に対して原告(沢井製薬)がした無効審判請求を不成立とした審決(無効2007-800192)の取消訴訟。

請求項1:

利尿薬,アンギオテンシン変換酵素阻害剤および/またはジゴキシンでのバックグランド療法を受けている哺乳類における虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率をクラスⅡからⅣの症状において同様に実質的に減少させる薬剤であって,低用量カルベジロールのチャレンジ期間を置いて6ヶ月以上投与される薬剤の製造のための,単独でのまたは1もしくは複数の別の治療薬と組み合わせたβ-アドレナリン受容体アンタゴニストとα1-アドレナリン受容体アンタゴニストの両方である下記構造:

を有するカルベジロールの使用であって,前記治療薬がアンギオテンシン変換酵素阻害剤,利尿薬および強心配糖体から成る群より選ばれる,カルベジロールの使用。

【要旨】

主 文

1 特許庁が無効2007-800192号事件について平成24年10月31日にした審決を取り消す。(他略)

裁判所の判断

ある文献に医薬発明が開示されているといえるためには,当該文献に記載された薬理試験が,医薬の有効成分である化学物質が問題となっている医薬用途を有することが合理的に推論できる試験であれば足り,医薬の承認の際に求められるような無作為化された大規模臨床試験である必要はない。

甲1文献記載の試験は,カルベジロールが虚血性のうっ血性心不全の治療に使用されることが合理的に推論できるものであるといえるから,甲1文献は,カルベジロールを虚血性のうっ血性心不全の治療に使用するという発明を完成した用途発明として開示したものということができ,また,甲1文献は,カルベジロールの効果を裏付ける文献としての意義を有しているものといえる。

審決が認定した本件発明1と甲1発明との相違点である,本件発明1では「虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率をクラスⅡからⅣの症状において同様に実質的に減少させる薬剤であって,低用量カルベジロールのチャレンジ期間を置いて6ヶ月以上投与される薬剤」であるのに対し,甲1発明では,「8週間の投与により虚血性のうっ血性心不全患者の血行動態パラメータを改善する薬剤」である点については,その構成という観点からは,当業者が容易に想到可能であったものということができる。

審決は,本件特許の優先権主張日当時,カルベジロールが虚血性のうっ血性心不全に起因する死亡率を低下することは知られていなかったところ,米国カルベジロール試験は,プラセボと比較して優位な効果が確認できたことにより試験が中止されたといえるので,優先権主張日当時の技術水準からみて,本件発明の効果が顕著な効果ではないということはできないと判断している。

しかし,米国カルベジロール試験は,治療期間が短いこと等により,その結果の信頼性が低いものであることは,前記説示のとおりである。したがって,米国カルベジロール試験においてプラセボと比較して優位な効果が確認できたことにより試験が中止されたからといって,本件発明に顕著な効果があるということはできない。

したがって,原告主張の取消事由2-1(甲1発明に基づく進歩性の判断の誤り),取消事由3(甲1~6発明に基づく進歩性の判断の誤り)及び取消事由4(本件発明の効果に係る判断の誤り)はいずれも理由があり,本件発明1は,甲1発明に甲4発明,甲5発明,甲6発明及び甲10発明並びに周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。したがって,本件発明1の進歩性に係る審決の判断は誤りである。

【コメント】

引用文献甲1に記載された医薬用途発明が引用発明としての適格性を備えていない旨の被告の主張を裁判所は退けた。医薬用途発明の引用適格性を「薬理試験が医薬用途を合理的に推論できる試験」かどうかで裁判所は判断した事例である。

顕著な効果を判断するに当たっては、米国カルベジロール試験が信頼できるのかどうかという問題だった。米国カルベジロール試験による申請を、FDAの諮問委員会が否決し、新たな未解決の問題に対処すべく評価項目を定めてプロスペクティブな試験をやり直すことを勧告した等の経緯から、明細書に記載された本件発明の効果である米国カルベジロール試験の結果が信憑性の低いものであることを示すものであると裁判所は判断した。従って、米国カルベジロール試験結果に基づいて本件発明に顕著な効果があると判断した審決は取り消された。

関連判決:

コメント

  1. Fubuki Fubuki より:

    【参考】
    石埜 正穂 「誇張されたもの」との誤った認定を受けて進歩性が否定された事例(平成24年(行ケ)第10419号審決取消請求事件) AIPPI Vol.59, No.3 (2014)
    https://web.sapmed.ac.jp/ipm/papers/vol59_03_p33p.pdf

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