ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その7): 知財高裁平成26年(ネ)10128
(原審: 2014.10.30 「興和 v. ニプロ」 東京地裁平成26年(ワ)773; 別紙目録)
【背景】
控訴人(興和)が、被控訴人(ニプロ)による被控訴人各全体標章(それぞれ横書きの「ピタバ」と「スタチン」を上下二段に配して成る標章)あるいは被控訴人各標章(被控訴人各全体標章からそれぞれ「ピタバ」の部分を抜き出したもの)を包装に付しての薬剤の販売が、控訴人が有する商標権(登録第4942833号。「PITAVA」の標準文字から成り、指定商品を「薬剤」とする登録商標に係る。)を侵害するとして商標法36条1項及び2項に基づき、被控訴人各全体標章等を付したPTPシートを包装とする薬剤の販売の差止め及び同薬剤の廃棄を求めた事案。
控訴人は、本件控訴を提起するとともに、本件商標権につき、指定商品を「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするもの(登録第4942833号の1)と、指定商品を「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とするもの(登録第4942833号の2。以下「本件商標権2」)に分割し、当審において、本件商標権2に基づき控訴の趣旨記載の請求をする旨の訴えの交換的変更を行い、被控訴人はこれに同意した。
【要旨】
主 文
控訴人の当審における交換的変更に係る請求をいずれも棄却する。(他略)
商標法26条1項2号該当性(争点3)について、被控訴人各全体標章が、本件物質の一般的名称である「ピタバスタチン」の語のうち、「ピタバ」の部分を「スタチン」に比べて強調して表示する構成であることが、「普通に用いられる方法で表示する」場合に当たるかどうかが問題となり、裁判所は下記のとおり判断した。
「~医療従事者にとっては,「ピタバ」の語は,少なくとも「ピタバスタチン」の語の一部として,あるいはこの語とともに用いられる場合には,明らかにその略称であると解されるから,かかる構成であることをもって,被控訴人各全体標章から本件物質を想起することが妨げられるということはできない。さらに~被控訴人各商品のPTPシートには,被控訴人各全体標章のほか,横書き一段の「ピタバスタチン」の記載があり,これと外箱における販売名の記載などを併せて見ると,被控訴人各全体標章が「ピタバ」ではなく「ピタバスタチン」を表したものであると認識することは,医療従事者にとっては容易であるということができる。そうすると,結局,医療従事者にとって,被控訴人各全体標章を見たときには,一体として「ピタバスタチン」を表していること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,「ピタバスタチン」の略称として用いられているのにすぎないこと)を,容易に理解することができるというべきである。
次に,患者にとっては,~被控訴人各商品に付された被控訴人各全体標章が,一体として「ピタバスタチン」を指すものであること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,それが「ピタバスタチン」の一部を取り出した略称にすぎないこと)を,さしたる困難もなく理解することができるというべきである。
したがって,被控訴人各全体標章は,取引者や需要者において,全体として「ピタバスタチン」を表示するものとして認識されるか,又は「ピタバスタチン」の略称と容易に理解することができる語としての「ピタバ」を表示するものとして認識されるものということができるから,その表示は,「普通に用いられる方法で表示する」ものの域を出るものではないと認められる。
以上によれば,被控訴人が被控訴人各商品のPTPシートに付して使用している被控訴人各全体標章は,本件商標権2の指定商品の原材料である「ピタバスタチン」を,普通に用いられる方法で表示するものと認められるから,法26条1項2号に当たり,これに対し,控訴人の有する本件商標権2の効力は及ばないというべきである。」
【コメント】
興和は、ニプロが使用する「ピタバ」は本件物質の一般的な略称表記ではないし、需要者である患者は「ピタバスタチン」が化学物質の一般的名称であると認識することはなく、商品名であると認識する、また、ニプロの各標章の表示態様は「普通に用いられる方法」に当たらない、などと主張していたが、裁判所は、その主張を否定した。
上記写真のようなPTPシート上での使用態様について、「ピタバ」の部分だけをことさら抜き出し独立して議論すること(本事件での主位的請求であった)には無理があるし、抜き出せたとしても略称として需要者(患者であっても)には認識可能、一般名称「ピタバスタチン」を普通に用いられる方法で表記した範疇に過ぎないというのは、直感的にもそう思う。裁判所の判断は妥当であろう。
関連判決(ピタバスタチンのピタバとPITAVA(その1~6):
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