マキサカルシトールの製造方法の進歩性: 知財高裁平成26年(行ケ)10263
【背景】
被告ら(ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬)が保有する「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許3310301号に対してなされた無効審判請求を不成立とした審決(無効2013-800080号)の取消訴訟。
争点は、①進歩性の有無、②実施可能要件違反の有無、③サポート要件違反の有無。
進歩性で問題となった本件発明13と甲2発明2との一致点及び相違点(2-ⅱ’)は下記のとおり。
一致点:
「下記構造を有する化合物の製造方法であって:
(式中,nは1であり;R1及びR2は各々独立に,所望により置換されたC1~C6アルキルであり;W及びXは各々独立に水素又はメチルであり;YはOであり;そしてZは,ステロイド環構造,又はビタミンD構造であり,Zの構造の各々は,1以上の保護又は未保護の置換基及び/又は1以上の保護基を所望により有していてもよく,Zの構造の環はいずれも1以上の不飽和結合を所望により有していてもよい)
(a)下記構造:
(式中,W,X,Y及びZは上記定義のとおりである)を有する化合物を塩基の存在下で下記構造:
E-Bを有する化合物(式中,Eは脱離基である)と反応させて,下記構造:
を有するエポキシド化合物を製造すること
(b)そのエポキシド化合物を還元剤で処理して化合物を製造すること;及び
(c)かくして製造された化合物を回収すること,
を含む方法」
相違点(2-ⅱ’):
「B」に対応する部分構造が,本件発明13では,「2,3-エポキシ-3-メチル-ブチル基」又は「2-脱離基-3-メチル-3-ヒドロキシ-ブチル基」であるのに対して,甲2発明2では,「3-メチル-4-テトラヒドロピラニルオキシ-2-ブテニル基」である点。
【要旨】
主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
取消事由1(甲2を主引例とする進歩性判断の誤り)について(抜粋)
「本件発明13と甲2発明2との相違点である(2-ⅱ’)に至る動機付けに関し,原告の主張するように,逆合成解析の手法を用いることにより,甲2発明2に基づいて,エポキシド化合物を目的化合物の前駆物質とすることを机上において想定できたとしても,甲3記載の反応式からエポキシ環を有する試薬とそれと反応する出発化合物との組合せを容易に想起できたとはいえず,また,上記前駆物質であるエポキシド化合物を20位-アルコール化合物と側鎖との間のエーテル結合部分で切断して,現実の試薬に対応させるに当たり,本件側鎖導入試薬を選択することは,甲4等に記載の周知技術を考慮したとしても,当業者にとって容易であったとはいえない。
すると,本件側鎖導入試薬と,それと反応する出発化合物である20位-アルコール化合物との反応性について,当業者がどのように立体障害等を予測したかを検討するまでもなく,当業者が,本件発明の一連の合成経路である,20位-アルコール化合物と本件側鎖導入試薬を用いて,エポキシド化合物(中間体)を得て(本件発明1),さらに,当該エポキシド化合物のエポキシ環を開環して,マキサカルシトール側鎖を有する目的化合物を得る(本件発明13)という製造方法を容易に想到できたとはいえない。
~以上から,原告の取消事由1には理由がない。」
取消事由2及び3(実施可能要件違反及びサポート要件違反に関する判断の誤り)についても理由がないと判断された(省略)。
【コメント】
本件特許は、マキサカルシトール(maxacalcitol)の製造方法に関するもの。マキサカルシトールは活性型ビタミンD3誘導体であり、中外製薬が販売する角化症治療剤オキサロール(Oxarol)®軟膏の有効成分。
本件特許については、他に、無効2013-800222(請求人: DKSHジャパン、岩城製薬、 高田製薬、ポーラファルマ。訂正を認め、無効審判の請求は成り立たないとの審決)、無効2014-800174(請求人: セルビオス-ファーマ。訂正を認め、無効審判の請求は成り立たないとの審決)、無効2015-800057(請求人: DKSHジャパン)、無効2015-800137(請求人: DKSHジャパン)で有効性が争われている。
本件特許の侵害訴訟は知財高裁の大合議で審理される。
コメント