マキサカルシトールの製造方法の進歩性: 知財高裁平成27年(行ケ)10251
【背景】
被告ら(ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬)が保有する「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許3310301号に対してなされた無効審判請求を不成立とした審決(無効2014-800174号)の取消訴訟。
争点は、進歩性の有無。
【要旨】
主 文
1 原告の請求を棄却する。(他略)
裁判所の判断
「本件発明1と甲1発明とは,ステロイド環構造の20位炭素原子に水酸基(-OH)が結合した化合物(以下「20位アルコール」という。)に脱離基を有する側鎖形成試薬を反応させてエーテル結合を形成させる反応(ウィリアムソン反応)である点で一致するが,脱離基を有する側鎖形成試薬における脱離基以外の構造(相違点1-ii)及び反応により得られる化合物の側鎖部分構造(相違点1-i)が,本件発明1は「2,3-エポキシ-3-メチル-ブチル基」であるのに対し,甲1発明は「-CH2-CH2-CH=CH2」である点で相違する(下図参照)。
(中略)
甲1には,甲1発明の出発物質に,甲2のようなエポキシ基を有する試薬をエポキシ基を保持したまま反応させて合成されるエポキシ中間体を合成し,これを経てOCTを製造する方法について,記載がなく,甲4及び14には,エポキシ基を有する試薬を他の化学物質と合成し,当該エポキシ基の開環により水酸基を得るという一連のOCTの製造方法が記載されているわけではないのであって,エポキシ基を開環して水酸基を形成する工程のみを取り出して,エポキシ基を有する試薬をエポキシ基を保持したまま他の化合物と反応させた後,その次の工程として適用することを前提に,エポキシ基を有する試薬を,エポキシ基を保持したまま他の化合物と反応させることにつき,記載も示唆もない。エポキシ基の開環反応によってアルコールを合成する方法が技術常識であることを考慮しても,甲1発明につき,エポキシ中間体を経由する反応経路を探索する動機付けはない。当業者が,エポキシ基を開環するという基本的知識を有していたとしても,OCTのより効率的な製造方法としての一連の工程として,エポキシ基を有する試薬をエポキシ基を保持させたまま甲1発明の出発物質と反応させて,エポキシ中間体を経由する反応経路を探索することが容易に想到できたということはできない。
したがって,エポキシ基が開裂する付加反応が生じる可能性についての当業者の認識を検討するまでもなく,前記イのとおりであって,本件発明1の容易想到性は,認められない。」
【コメント】
本件特許は、マキサカルシトール(maxacalcitol)の製造方法に関するもの。
マキサカルシトールは活性型ビタミンD3誘導体であり、中外製薬が販売する角化症治療剤オキサロール(Oxarol)®軟膏の有効成分。本件特許については、他に下記のとおり無効審判請求がなされ有効性が争われている。いずれの判断も特許は有効とされている。
均等侵害を認めた知財高裁大合議判決(2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)も含めて特許権者側の勝利が続いていることになる。
本特許権の存続期間満了日は2022年9月3日。本件特許権を回避した製法で製造されたジェネリックは既に市場に参入している。
- 無効2013-800222(請求人: DKSHジャパン、岩城製薬、 高田製薬、ポーラファルマ): 訂正を認め、無効審判の請求は成り立たないとの審決。審決取消訴訟(2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬・ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ イン ザ シティ オブ ニューヨーク」 知財高裁平成27年(行ケ)10014)で請求棄却判決、確定。
- 無効2014-800080(請求人: セルビオス-ファーマ): 訂正を認め、無効審判の請求は成り立たないとの審決。審決取消訴訟(2015.12.24 「セルビオス-ファーマ v. ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬」 知財高裁平成26年(行ケ)10263)で請求棄却判決、確定。
- 無効2015-800057(請求人: DKSHジャパン): 無効審判の請求は成り立たないとの審決。審決取消訴訟(平成28年(行ケ)10101) 出訴日(2016.04.28)。
- 無効2015-800137(請求人: DKSHジャパン)
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