FibroGen社が保有する「赤血球形成を増強するためのHIFα安定剤の使用」に関する日本特許(第4845728号; 第5474872号; 第5474741号、特許期間満了日はいずれも2024年6月4日)が、田辺三菱製薬及びAkebia社から特許無効審判を請求されている(無効2018-800079; 無効2018-800093; 無効2018-800102)。
田辺三菱製薬とAkebia社は、2015年に、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(Hypoxia Inducible Factor Prolyl Hydroxylase;HIF-PH)阻害剤であるバダデュスタット(Vadadustat)について、日本およびアジアの一部における開発および販売を田辺三菱製薬が独占的に実施する契約を締結。
田辺三菱製薬は、2019年7月23日に、バダデュスタットについて、腎性貧血を適応症として日本において製造販売承認申請したばかり。
Vadadustat |
田辺三菱製薬とAkebia社とが手を組んで日本で開発しているバダデュスタットが、FibroGen社の上記特許発明の技術的範囲に属している可能性があり、田辺三菱製薬とAkebia社は、請求した無効審判で上記特許の無効を勝ち取りたい構えだ。
下記Akebia SEQ 10-Qによると、FibroGenが保有する各種特許群への異議申立・無効審判等の法手続きが世界的に進行しているが(欧米等における開発・販売は大塚製薬へのライセンス)、特に日本については、Fibrogen社が保有する別の特許第4804131号に対して請求した無効審判(無効2014-800093)において、バダデュスタットの化学構造式が範囲外となる構成にクレームを訂正させることに成功している。
その結果は、上記係属中の3つの無効審判の結果にも少なからず影響するかもしれない。
- 2019.07.23 田辺三菱製薬 press release: 「腎性貧血治療剤バダデュスタット(MT-6548:HIF-PH阻害剤) 国内での製造販売承認申請に関するお知らせ」
- 2015.12.15 田辺三菱製薬 press release: 「田辺三菱製薬とアケビア社によるバダデュスタットの日本・アジアにおける開発・販売権に係る協業契約締結について」
- 2019.05.09 Akebia SEQ Filings 10-Q: Quarterly report which provides a continuing view of a company’s financial position
“Likewise, we also filed an invalidity proceeding before the Japan Patent Office, or JPO, on June 2, 2014 against certain claims of FibroGen’s Japanese Patent No. 4804131, or the ’131 JP Patent, which is the Japanese counterpart to the ’823 EP Patent, and the JPO issued a preliminary decision finding all of the challenged claims to be invalid. FibroGen subsequently amended the claims and the JPO accepted the amendments. The resulting ’131 JP Patent does not cover vadadustat or any pyridine carboxamide compounds.”
“On June 22, 2018, we and our collaboration partner in Japan, Mitsubishi Tanabe Pharma Corporation, or MTPC, jointly filed a Request for Trial before the JPO to challenge the validity of one of FibroGen’s HIF-related patents in Japan, JP4845728. On July 20, 2018 and August 13, 2018, we and MTPC jointly filed a Request for Trial before the JPO to challenge the validity of two additional FibroGen HIF-related patents in Japan, JP5474872 and JP5474741, respectively.”
特許権者であるFibroGen社は、アステラス製薬と共同でHIF-PH阻害剤であるロキサデュスタット(Roxadustat)の開発を進め、アステラス製薬が、2018年10月1日に、透析期の慢性腎臓病に伴う貧血を適応症として日本において製造販売承認申請を行っており、2019年8月29日に、厚労省・薬事食品衛生審議会・医薬品第一部会にてその承認可否が審議される予定。
Roxadustat |
- 2018.10.01 アステラス製薬 press release: 「ロキサデュスタット 透析期の慢性腎臓病に伴う貧血の治療薬として日本で製造販売承認申請」
- 2006.04.28 アステラス製薬 press release: 「経口投与可能な低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素阻害剤(HIF-PHI)」
経口投与可能な腎性貧血の新たな治療薬として期待されるHIF-PH阻害剤は、複数製薬会社により開発が進められており、アステラス製薬のロキサデュスタット、田辺三菱製薬のバダデュスタットが日本で製造販売承認申請され、承認待ちの状況。HIF-PH阻害剤による腎性貧血市場での覇権争いは、日本でも特許的場面において大きな争いに発展するのかどうか目が離せない。
コメント
【追記】
2020.01.31 「赤血球形成を増強するためのHIFα安定剤の使用」に関する特許第4845728号の特許無効審判事件(無効2018-800079)において、
特許請求の範囲について訂正することを認めたうえで、
・請求項1~11に係る発明についての特許を無効とする
・請求項14及び15に係る発明についての審判請求は成り立たない
・請求項12及び13に係る発明についての審判請求を却下する
とする審決の予告。
【追記】
2020.06.29 田辺三菱製薬 press release: 腎性貧血治療剤「バフセオ®錠」(HIF-PH阻害剤)について国内での製造販売承認を取得
https://www.mt-pharma.co.jp/release/nr/2020/pdf/MTPC200629.pdf
【追記】
2022.03.22 特許第4845728号の訂正後クレーム1~5、14を無効(進歩性欠如)とする審決。その他特許第5474872号及び第5474741号は無効請求不成立審決となるも、それらのクレーム、特許第4845728号において生き残ったクレームも、HIF-PH阻害剤バフセオ®(バダデュスタット)の「腎性貧血」用途をカバーしていないようである。
訴え取下げにより2023年12月中旬に終局しました。
・令和4年(行ケ)第10031号 審決取消訴訟 特許4845728
・令和4年(行ケ)第10042号 審決取消訴訟 特許5474741
・令和4年(行ケ)第10043号 審決取消訴訟 特許5474872
・令和4年(行ケ)第10076号 審決取消訴訟 特許4845728
・令和4年(行ケ)第10077号 審決取消訴訟 特許4845728
・令和4年(行ケ)第10085号 審決取消訴訟 特許5474741
・令和4年(行ケ)第10086号 審決取消訴訟 特許5474872
【メモ】
2024.03.01JUVE Patent記事: Akebia defends anaemia drug patents at EPO amid huge Fibrogen battle
https://www.juve-patent.com/cases/akebia-defends-anaemia-drug-patents-at-epo-amid-huge-fibrogen-battle/