旭化成ファーマは、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の活性部分である N 端側の 1-34番目のアミノ酸に相当する化学合成ペプチドであるテリパラチド(Teriparatide)酢酸塩を有効成分とする週 1 回皮下投与の骨粗鬆症治療剤「テリボン®皮下注用56.5μg」を製造販売しています(再審査期間は、2011年9月26日~2017年9月25日(6年))。2019年9月には「テリボン®皮下注28.2μgオートインジェクター」の製造販売承認を取得し、12月に販売を開始しました。旭化成(株)の2019年度第3四半期決算説明資料(2020年2月7日)によるとテリボン®の国内売上高2018年度実績は283億円、2019年度も第3四半期実績までの推移から260億円程度は見込めそうです。2019年2月に、子会社の旭化成シンメッドが、テリボン®皮下注用56.5μgのオーソライズド・ジェネリックの承認を得ていますが、他のジェネリックメーカーからテリボン®のジェネリックは今だ承認されていません。そのジェネリック参入の障壁となっているのが下記の特許権群の存在と考えられます。
1.テリボン®(テリパラチド酢酸塩)に関連する特許群(日本):
2018年1月29日付の「【謹告】テリパラチド酢酸塩に関する特許権について」及び2019年6月5日付の「【謹告】テリパラチド酢酸塩に関する特許権について」によれば、旭化成ファーマは、テリパラチド酢酸塩を有効成分とする骨粗鬆症治療ないし予防剤に関する特許権(特許第6150846号、特許第6043008号、特許第6198346号、特許第6522715号)、テリパラチド酢酸塩を有効成分とする凍結乾燥製剤に関する特許権(特許第5922833号、特許第5960935号、特許第5996824号、特許第6031633号、特許第6057492号)およびテリパラチド酢酸塩を有効成分とする凍結乾燥製剤の製造方法に関する特許権(特許第6025881号、特許第6258426号)を保有しており、これら特許権は有効に存続しているとのことです。
上記特許権(特許第6150846号、特許第6043008号、特許第6198346号、特許第6522715号)は元をたどると特願2011-530844(再表2011/030774; WO2011/030774)を原出願とするもので、現在その出願から派生した7つの特許が存続しています。特願2011-530844については、拒絶審決取消訴訟(2016.11.28 「旭化成ファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10241)で新規性・進歩性が争われた経緯があります(請求棄却判決。上告受理申立却下。)。
[表1] 旭化成ファーマが保有するテリパラチドの週1回投与を特徴とする骨粗鬆症治療ないし予防剤に関する特許群(請求項1の構成)
2.ジェネリックメーカーの動き
[表2] 旭化成ファーマが保有するテリパラチドの週1回投与を特徴とする骨粗鬆症治療ないし予防剤に関する特許群に対するジェネリックメーカーの動き
特許6150846
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特許6043008
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特許6198346
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特許6275900
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特許6274634
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特許6301524
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特許6522715
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特許設定登録日
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2017.06.02
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2016.11.18
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2017.09.01
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2018.01.19
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2018.01.19
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2018.03.09
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2019.05.10
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異議申立
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異議2017-701219
2017.12.21申立。
2018.03.28特許維持決定。
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異議2017-700591
2017.06.13申立。
2017.09.27特許維持決定。
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異議2018-700232
2018.03.20申立。
2018.05.30特許維持決定。
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沢井製薬 v. 旭化成ファーマ
(ニプロ及びテバは、それぞれ2018.10.11及び2018.11.08に参加したが、それぞれ2019.07.24及び2019.04.11に参加申請を取下げている)
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無効2018-800080
2018.06.22請求。
沢井は、理由1(実施可能要件)、理由2(サポート要件)、理由3(進歩性)により、特許無効を主張。
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無効2018-800064
2018.05.24請求。
沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(進歩性)により、特許無効を主張。
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無効2018-800065
2018.05.24請求。
沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(サポート要件)、理由4(進歩性)により、特許無効を主張。
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無効2018-800077
2018.06.12請求。
沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(進歩性)により、特許無効を主張。
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無効2018-800076
2018.06.12請求。
沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(進歩性)により、特許無効を主張。
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無効2018-800066
2018.05.24請求。
沢井は、理由1(明確性)、理由2(実施可能要件)、理由3(サポート要件)、理由4(進歩性)により、特許無効を主張。
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2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
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2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
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2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
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2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
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2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
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2019.08.06進歩性欠如の理由があり無効とする旨の審決予告。
2019.10.15訂正請求。
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2019.12.18訂正を認めた上で特許無効審決。
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2020.02.18訂正を認めた上で無効審判請求不成立審決。
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2020.01.12旭化成ファーマは、審決取消訴訟提起(令和2年(行ケ)10004)。
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日医工 v. 旭化成ファーマ
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無効2019-800062
2019.08.29請求。
2020.04.27口頭審理(予定)。
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無効2019-800075
2019.09.30請求。
2020.04.27口頭審理(予定)。
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上記旭化成ファーマの7つの特許は、沢井製薬により請求された無効審判において、5つの特許については無効とする審決の予告又は無効審決を受けています(表2中の赤字。いずれも、現在、審理・裁判係属中であり確定していません。)。日医工もそのうち2つの特許(特許6198346、特許6522715)に対して無効審判を請求しており、いずれも2020年4月27日に口頭審理が予定されています。
気になる点:
- 沢井製薬が、上記旭化成ファーマの7つの特許権のうち、特許6522715だけ無効審判を請求していないこと。
- 日医工が、上記旭化成ファーマの7つの特許権のうち、2つ(特許6198346、特許6522715)以外は無効審判を請求をしていないこと。
- ニプロ及びテバは、沢井製薬が請求した無効審判全てに参加したが、審決予告前には参加を取下げた理由は。
- 沢井製薬と旭化成ファーマとで和解(無効審判請求取下げ、ジェネリックの販売を一定時期から)はあるだろうか。
- 旭化成シンメッドがテリボン®皮下注用56.5μgのオーソライズド・ジェネリックを販売開始するのはいつか。
コメント
【追記】
2020.07.06 【謹告】テリパラチド酢酸塩に関する特許権について
https://nk.jiho.jp/adtext/153051