2022年3月17日の中外製薬のプレスリリース(2022.03.17 中外製薬 press release: 特許権侵害訴訟の和解に関するお知らせ)によると、中外製薬は、アストラゼネカ社傘下のアレクシオン社が販売する抗補体抗体製品 ULTOMIRIS®(一般名:ravulizumab)に関し、中外製薬が提起した特許権侵害訴訟について、本日付で、アレクシオン社と和解契約を締結し、これに伴い、中外製薬はアレクシオン社と共同で、下記の特許権侵害訴訟の取り下げ手続きを行うとのことです。
<取り下げ対象となる特許権侵害訴訟>
1.米国デラウエア州連邦地方裁判所にて中外製薬が提起した訴訟
提起日:2018年11月15日及び追加提起2019年11月13日(米国現地時刻)
被告:アレクシオン ファーマスーティカルズ インコーポレーテッド
訴訟対象特許:米国特許第9,890,377号および第10,472,623号
2.東京地方裁判所にて中外製薬が提起した訴訟
提起日:2018年12月5日(日本時刻)
被告:アレクシオンファーマ合同会社
訴訟対象特許:日本特許第4954326号および第641743号(←6417431が正しい番号と思われます)
この和解契約締結により、中外製薬はアレクシオン社から一時金7.75億米ドルを受領する予定。なお、本和解契約において、今後、両社間で上記一時金以外の金銭、ロイヤルティの授受は発生しないとのことです。
中外製薬の特許発明は、抗体が抗原に繰り返し結合することで抗体が作用する時間を延ばす「リサイクリング抗体」を創製する技術(参照: SMART-Ig® (リサイクリング抗体®創製技術))に関するもの。
アレクシオン社のラブリズマブ(Ravulizumab)は、抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤「ユルトミリス®点滴静注 300 ㎎」の有効成分。2019年6月18日に発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として日本での製造販売承認を取得しました。
アストラゼネカ社(アレクシオン社の親会社)のAnnual report 2021によると、ULTOMIRIS®の2021年の売上収益は6.88億米ドル(includes Alexion sales from 21 July 2021)とのことです。また、アストラゼネカ社傘下となる前のアレクシオン社のAlexion Reports Fourth Quarter and Full Year 2020 Resultsによると、2020年の売上収益は10.767億米ドルであり、ブロックバスターの仲間入りをしています。
以下の記事のとおり、中外製薬はアレクシオン社との間で特許紛争が起きていました。
アストラゼネカ社からも同日プレスリリースが出ています(2022.03.17 AstraZeneca press release: AstraZeneca reaches settlement agreement resolving patent litigation related to Ultomiris)。日米欧での紛争手続状況の要約が記載されています。
Ultomiris patent proceedings
US
In November 2018, Chugai filed a lawsuit against Alexion in the Delaware District Court alleging that Ultomiris infringes US patent No. 9,890,377 held by Chugai. Upon issuance of US patent No. 10,472,623 in November 2019, Chugai filed a second lawsuit in the same court alleging that Ultomiris also infringes that patent. The two lawsuits were consolidated in December 2019.Japan
In December 2018, Chugai filed a lawsuit in the Tokyo District Court against Alexion Pharma GK alleging that Ultomiris infringed two Japanese patents (Japanese Patent No. 4954326 and No. 641743) held by Chugai. Chugai’s complaint sought unspecified damages and certain injunctive relief. Also beginning in 2016, Alexion had challenged the validity of four of Chugai’s Japanese patents. The IP High Court in Japan had found these patents invalid. Chugai filed a correction of these patents with the Japanese Patent Office. The Japanese Patent Office found the corrected patents invalid, and Chugai appealed the Patent Office’s decision to the IP High Court in Japan.Europe
Beginning in 2016, Alexion challenged the validity of five of Chugai’s European patents. One patent was maintained by the Opposition Division of the European Patent Office while four were revoked. Three of the five decisions by the Opposition Division have been appealed to the Boards of Appeal for the European Patent Office.
コメント
知財高裁ウェブサイトの審決取消等訴訟(特許・実用新案)係属中事件一覧表/終局事件一覧表の情報によると、以下の審決取消訴訟の訴えは取下げられました(終局日2022年4月5日)。
2024.02.08 中外製薬 press release: クロバリマブ、発作性夜間ヘモグロビン尿症を対象に中国において世界で初めて承認を取得
https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20240208113000_1369.html
抗補体C5リサイクリング抗体クロバリマブ(Crovalimab, 中国語製品名:派圣凯®)は中外製薬のリサイクリング抗体技術を用いた抗補体C5リサイクリング抗体です。一般的な抗体では、抗原に一回しか結合することができないのに対し、クロバリマブは繰り返し抗原に結合するよう改変することで、低用量で持続的な補体阻害が可能となり、4週ごとの皮下投与を実現しています。